スタートアップバブル(ダン・ライオンズ)

「ハブ」といえば「接続」とか「拠点」という意味です。ネットワークにシステム使われるスイッチングハブとか、ハブ空港などに使われていますね。

ところが若い世代で使われる日本語では、ハブはまるで逆の意味を持ちます。
「省く」、「省かれる」から転じて仲間はずれにするという意味で使われるのです。
ですから、「ハブスポット」なんていう会社名は、英語と日本語ではまるで正反対の意味で解釈されるかも知れません。

で、「ハブスポット」という会社は実在します。その実在の会社での経験を書いたのが「スタートアップバブル 愚かな投資家と幼稚な起業家」です。

著者はニューズウィークの元記者、リストラされたとはいえ、IT業界に関する知識も豊富です。しかし業界を知っているのと、そこで働くのはまったくの別物。

とりわけ振興のIT企業では、記者としてのキャリアはまったく役に立ちません。また著者も著者で、新しい職場の作法になじもうとしない。そのため職場で孤立し浮いてしまいます。

だけではなく。
次第に周囲から疎まれ、仲間はずれにされて行く。まさに「ハブスポット」でハブられてしまうのですね! 日本語のハブが見事に社名に符合してしまったのです!

しかも後半、新たに入社してきた上司に疎まれ徹底的なイジメに遭い、鬱状態に追い込まれて退職を余儀なくされます。こういう陰湿な人間関係って、洋の東西を問わずにあるものなんですねえ。
アメリカ人あるいアメリカ的な社会とは。
印象としては自由でオープンでお互いの個性を尊重しあう素晴らしい世界のようですが、実際には色々な人間がいるし様々な人間関係があるし、人間という生き物の生理とそこから生じる精神に、そう大きな違いはないということか。

そしてアメリカの、特にIT企業といえば自由に仕事ができるイメージがあります。
シカシナガラ。
どうやらそれはあくまでも表面的なハナシ。ハブスポットでもキャンディーコーナーがあったり楽しげなイベントがあったりします。
しかし、それは会社が若い社員を都合よく働かせるための「まやかし」に過ぎないことを、本書でははっきりと暴露しちゃっています。

そんなことを書いて、訴訟社会のアメリカで大丈夫なのか? と思っていたら、訴えられるよりも恐ろしいことが著者を待ち受けていたのです。
それはエピローグで語られまる。最後の最後に、一番怖いハナシを持ってくる。
やりますねえ。

昔のアメリカ製SFホラー映画で、やっと怪物を退治たと思いきや、怪物が蘇生を暗示するシーンが映る。
そこにエンドマークが重なる。そういう手法を思い出しました。


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