
サブタイトルが「北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏」とあります。全国大会進出を目指して練習に燃えながらも、人間関係や音楽コンクールの意義、音楽への取り組み方などにも熱く悩む面々が描かれています。
それはいいのですが、プロローグで初登場の人物が何の説明もなしに泣いたり喜んだり滑ったり転んだりという描写で始まるのがなかなか辛いです。お話の世界に入っていけないんですよ。
プロローグで「この本の主要な人物」をさりげなく紹介する映画的な手法なのかもしれませんが、小説でそのままやられると、ちょっと厳しい。
映画的な手法といえば、随所に文学的というか映像的な描写がふんだんにちりばめられているのですが、それがどうもとってつけたような、作者の自己満足的な「書き込みすぎ」に感じるのも、ちょっと苦手なところ。
しかも女性の身体的な一部分をクローズアップしたり、水着姿の描写をしつこいまでに書き込まれていたりもする。ある種の読者サービスのつもりかもしれませんが、「ほらほら、あんたたち、こういうの好きでしょ?」とさげすまれているようにも感じるのは被害者意識過剰というものでしょうか。
ライトノベルではなく、エンタテイメント小説、と紹介されている本作ですが、表紙のイラストや、その画でアニメ化されていることからも、限りなくライトノベルに近いから、そうなるのか。
ついでにもうひとつ書くなら、ところどころ非常に違和感のある言葉遣い、あるいは言葉の組み合わせが登場するのも読んでいて引っ掛かりを感じるところです。
普通、「颯爽とした声」とは言わない気がするのだが。
と、重箱の隅をつつくような苦情は言えるのですが、吹奏楽部を舞台にしたお話としてはとても楽しめます。
中学一年生のときだけ吹奏楽部だった(転校したので続けられなかったのだ)思い出を大切にしているハンサムで上品な中年紳士としては、思い当たるところもあれば、自分はそこまで考えていなかったなあ、というところもありました。
中学や高校というのは、ほんのひとつかふたつしか年の違わない子たちが、そのたった一年の年齢差を先輩後輩という厳格な身分制度に落とし込んで生きている狭い空間です。そこに「実力」という要素が絡んでくると、非常に難しい問題が出てくる。
先輩をさしおいて後輩が抜擢された場合の葛藤や軋轢がドロドロと描かれていて、思い当たる人は眼をそむけたくなるんじゃないでしょうか。
ぼーっとチューバを吹いていたハンサムで上品な中年紳士、いや、紅顔の美少年はそういうことはまったく考えていなかったなあ。少しは考えていたら、今頃はもう少し器用に世間の荒波を泳ぎ渡っていたかもしれません。
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