私を構成する5つのマンガ

いつもコメントをくださる海さんが私を構成する5つのマンガというテーマで記事を書いてらっしゃいました。なかなか興味深く、重なる部分もあれば重ならないところもあり、知らない漫画もありました。「私を構成する5つのマンガ」という切り口は、ツイッタでも流行しているみたいですし、ぼく書いてみます。

と、いざ書こうとすると、なかなか難しい。海さんも書いておられる通り、「好きな漫画ベスト5」でなく、あくまでも「自分の人格を構成した、自分を作り上げた、考え方や生き方として影響された」という意味なんですから。

もっとも嫌いな漫画を影響を受けるほど読み込むとも思えないので、基本は好きな漫画の中から選ぶということになるのかな。でも、あまり好きじゃないけど影響を受けたことは認めざるをえない、なんて歯切れの悪い印象を持ち続けている漫画もありますし。

2日ほど考えて、選んだのは次の5つ。

(1)東大一直線(小林よしのり)
初めて「東大一直線」を読んだのは、中学二年生の冬。単行本で読んだのですが、週刊少年ジャンプ連載時は主人公の東大通も中学二年で、ぼくとは同学年でした。とは言い条、連載時は読んでいません。ですから自分の実際中学校生活からは、半年から一年遅れくらいのエピソードを読んでいたことになります。

中学二年のころは、テストで半分の点数も危ういという落ちこぼれでございました。ところが、東大通の異常なガリ勉ぶりに触発されて勉強してみたら、半年くらいで9割くらいの点数が取れるまでに成績が回復したという、いわば進路指導の役割を果たしてくれた漫画です。

公立高校の普通科は無理かもしれない、と思われていたぼくが、一応は「進学校」と呼ばれる高校に合格できたのはひとえにこの漫画のおかげです。この漫画を読んでいなかったら、人生はずいぶん違っていたものになっていたでしょう。まあ、その御利益も中学生までで、高校以後は再び落ちこぼれていたのですけれども。

もっともこの漫画、高校編以降は面白くなくて読むをやめましたけどね。

一番おもしろかったのは、中学二年の夏から三年生になって受験が迫った秋くらいまで。それ以降は、無理なギャグが破綻していた。まあ、ギャグ漫画の宿命ですけれども。


(2)バイトくん(いしいひさいち)
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いしいひさいちの漫画は、「タブチくん」などで知っていましたが、あまり好きではなかったです。その後いろいろとあって、浪人を経て三流私大に入学したころに、バイトくんに出会って大いに影響を受けました。バイトくんのように授業にも出ずにバイトに明け暮れ、留年したり就職試験に落ちまくったりしてました。

ああいうことは漫画で読むから面白いのであって、実際に体験しても面白くはないもんだ、ということは学んだ。学んだときには、すでに時遅し。おそかりし、ユラノスケ~。


(3)ダンドリくん(泉昌之)
作者は、作画の泉晴紀と原作の久住昌之の名前を足したものですね。名字と名前をそれぞれくっつけるとは、合体ペンネームにしても、かなりいい加減な気がする。

それでいてこの漫画は、久住昌之の細かい事へのこだわりをギャグに昇華したもので、「ダンドリよくものごとを進めるのが大好き」なダンドリくんが主人公。

テレビのリモコンがないから、竹の棒にビニールテープを巻いたものでスイッチのオンオフからボリュームまでコントロールする、蛍光灯の紐を絡めて明かりを点けたり消したりなど、みみっちい工夫のオンパレード。しかもそれを自慢気に語るのだから、貧乏くさいことこのうえない。

個人的に永久に語り継ぎたいエピソードとしては、システム手帳の使い方の工夫があります。たくさんはみ出たインデックスを「ベロ」と呼んで使いにくいものとし、ベロは二箇所だけで、手帳の向きによって使い分けるという工夫はなかなか実用的で、いっときは真似したこともあった……かな?


(4)寄席芸人伝(古谷三敏)
この漫画、ずいぶん読んだことは読んだのですが、「好きか?」と尋ねられたら、「いや、それほどでも」と答えるでしょう。古谷三敏の漫画は、どうも臭みが強くっていけない。

しかし「寄席芸人伝」を読んで落語の基本的な知識や符丁、「ぞろっぺえ」なんて今でもよく使う言葉を覚えたことは事実であり、この漫画を読まなったら、今ほど落語好きだったかどうか。それでも、あまり素直に好きとはいえない漫画ですね。

まさに「好きではないけど影響されたことは間違いない」、という漫画です。


(5)フロムK(いしかわじゅん)
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「K」は吉祥寺のことで、いわば「吉祥寺より」とか「吉祥寺日記」みたいな意味合いでしょう。いしかわじゅんが仕事場でアシスタントたちワイワイ仕事したり、漫画家たちの交流したり、編集者と打ち合わせしたり飲んだり遊んだりする日常を描いたもので、登場人物はすべて実在の人で、基本的に実名です。

この漫画を読んだのはサラリーマン(営業マン)になって2~3年目のころ。いつまでたっても仕事に慣れず、顧客との会話が苦手で、すぐにでもサラリーマンを辞めたかったころです。辞めてどうするというアテも方針もやりたいこともないまま悶々として過ごす日々、フロムKに描かれる「ギョーカイ」の人たちは楽しそうでキラキラして見えました。

さすがに漫画家になるのは無理だと思っていたので(絵が下手だから)、小説家になってアシスタントたちと遊びながら仕事をする日を夢見たりしていた自分にとっては、心の支えみたいな漫画でしたね。

実際には漫画家(とか小説家とか)は楽なものではなく、「(社会保険などを考えれば)自営業はサラリーマンの三倍稼いでやっとトントン」だとか、「小説家よりも漫画家のほうがたいへんだ。漫画家はストーリーができてからが大仕事なんだから」ということを覚えたのもフロムKのおかげですね。

この本、30代前半に仙台で単身赴任しているころに突如として読みたくなって、仙台中の古本を探したけど見つからなかったという思い出もあります。ブックオフはまだなかったけど、当時の仙台には大型の古本チェーン店がたくさんありました。名前は覚えてないけど、そういう店もずいぶん探しましたよ。

東北大学のそばにあった由緒正しそうな古本屋さんでは、
店主が「どういう本なのか?」と聞くので説明したら、
「へえー」という、呆れたような感心したような顔をされながらも、
「(そんなに一所懸命に探すなら)よほど大切な本なんですねえ」と一応は理解を示してくださったのも、いい思い出です。

あれだけ熱心に探したのは、やはり仙台支店に馴染めず会社を辞めて北海道に帰りたい、という気持ちの発露だったんじゃなかろうか。前述したサラリーマンを辞めたくてたまらなかったころの気分と、似ているし。

ちなみにこの本、仙台から北海道に戻って実家を探したら、捨てようと思っていた本を詰めた紙袋の底で見つけました。その後は特に愛読した記憶もないから、どうやら会社を辞めたい気持ちは収まっていたのでしょう。

でなければ昨年、定年を迎えることはなかったはず。考えようによっては、この本があったおかげで三十数年(その間、二度転職している)の会社員生活を全うできたということか。

まさに、私を構成する5つのマンガを締めくくるにふさわしい一冊(全2巻だが)ですね。



この記事へのコメント

  • しろまめさん、どうもです。
    「構成する5つのマンガ」、興味深く
    読ませていただきました。
    やはりラストの「フロムK」のエピソードがイイですね。
    サラリーマンになって2~3年目に出会ったというのも
    なんかわかる気がします。
    私も2~3年目に転勤で一人暮らしがスタートしたのですが
    ちょうど「ナニワ金融道」と出会って、休みの日に
    部屋で一人でコンビニ弁当食べながら、ナニワ金融道を
    読んでました。今でも読み返すと、その頃住んでた
    アパートを思い出すんですよね(笑)
    2023年01月13日 22:57
  • しろまめ

    海 さん>>
    コメントありがとうございます。

    漫画を読んだときの状況は、けっこうその後も記憶に残りますね。
    コブラの「ラグボール」の回は、高校時代に学校の近くにあった蕎麦屋でカツ丼食べながら読んでいました。そのせいか、コミックになった「コブラ・ラグボールの巻」を読むと、その時のカツ丼の味が口の中に広がるということが中年期以降も続いてました。

    2023年01月14日 16:30