
この物語は容赦のないSFでした。
帯に書かれたあらすじには、「主人公の級友の一家がある日こつ然姿を消し、主人公の家族もまた消えてしまった」としてあります。
物語の最後には、主人公の家族はもちろん、級友の一家も戻ってくるのかと思っていたんですよ。どこかに幽閉されているとかの展開だと予想していたんですよ。
ところが消えた人たちは、文字通り消されてしまっていたんですね。しかも消したのは、文明が進みすぎた星からやって来た人間抹殺用ロボットだというのです。絶望するしかないような物語に、結末までグイグイと引き込まれるように一気に読みました。
人間抹殺ロボットの名前が、本のタイトルでもある「ポーン・ロボット」。「ターミネーター」みたいなものですね。ロボットが人類を抹殺するという点もターミネーターに似ていますが、こちらのロボットはさらに強くて始末に悪い。
物語では「ロボットに人間がほとんど抹殺された星」から逃げてきた少女の口を通して、ポーン・ロボット誕生の経緯も説明されています。
それを読むと、自動運転自動車で事故を起こした場合の責任問題などにも通じる、テクノロジーと倫理の問題を考えさせられます。
そもそもポーン・ロボットは、人間同士が直接殺し合うことが嫌になったためにロボットを戦争に送り込んだところから始まっているのです。現実の世界でも、自律式攻撃ロボットが開発されています。SF物語そのままの悲劇が起こらないとも限りません。
兵器を作る人間や、それを使おうとする人間は必ずいいます。
「制御できているから危険はない」と。
ですが事故というものは、いつだって「安心」とか「安全」という決まり文句の陰から飛び出してくるんです。
原発事故を引き合いに出すまでもありません!
もうひとつ考えたのが、文明とか科学技術や知見を鼻にかけることについてです。
「人間がほとんど抹殺された星」から逃げていた少女の口から、地球の文明が遅れていることをバカにするセリフがたびたび出てきます。
確かに少女のいた星の文明は、おそらく現代の地球の科学文明水準から見て百年かそこらは進んでいるようです。
ですが、それは単にその星の文明が進歩するペースが早かったか、生命の歴史が地球よりも古いだけかもしれません。たまたま先に進んでいただけかもしれないですよね。
それにいくら文明が進んでいるからといって、それは一人の力で成し遂げたものではありません。自分の生まれた星の文明に誇りを持つのはよいが、それを自慢して後進の文化を見下すのは間違っていますし、愚かしいことです。
これはSFの本ですから、少女の態度も惑星間の文明レベルについてのハナシ。
ですが地球の国家間や地域差についても同じことが言えるでしょうね。
後進国の人間に対して、「あいつらは遅れている」と先進国の人間が言うのは愚かです。
先進国の人間は、たまたま「先に」スタートしていただけですから。
その文化や文明、科学技術だって、愚かな発言をした人が成し遂げたものじゃないんだから。
と、そんなことまで考えてしまった一冊でした。
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