帰宅途中、前を歩いていた女子高校生がスマートフォンで道路沿いの家を撮影していました。
その家は玄関全体が古いカーポートで覆われたような陰気な建物なのですが、ネコがたむろしている猫屋敷です。ネコの写真でも撮っていたのかと思っていたら、ぼくが通りかかったとき、キツネが一匹飛び出してきました。
思わず、「ごん、お前だったのか」と口に出すことは、さすがになかった。
キツネはいわゆるキタキツネ。ただ赤茶けて痩せこけていて、やつれた貧相なキツネでした。よくきれいな毛並みのキツネのイラストがありますが、あんなのは飼育下の個体でしょう。野生の生き物は、だいたい食うや食わずという暮らしですから。まあ、だからこそ人里にやってきて、ゴミなどを漁っているのでしょう。
キツネを見かけるのは、それほど珍しくないとはいえ、まるきり珍しくない、とも言えないことです。
こんな住宅地をウロウロしやがって、という目で見つめると、キツネも見つめ返してきました。別に気持ちが通じ合ったわけではなく、目をそらすと攻撃される、と思っているのでしょう。目をそらすのは、相手に対する注意が削がれることで、当然、隙もできますから。
キツネが動かないので、さっきの女子高校生のマネをして写真でも撮ろうか、とスマートフォンのカメラを起動するために目を離した瞬間でした。
くるりと体をひるがえし、キツネは逃げ出したのです。写真はその瞬間です。
もっと気の荒いキツネなら、スマートフォンに目を落とした瞬間に喉笛に食いつかれていたかもしれません。
そしてキツネにハンサムと上品が感染って、正一位稲荷として神社に祀られていたかもしれません。
食いつかれた紳士はどうなったかわかりませんが。
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