アリよ、きみはどこから来てどこに行くのか

ari.jpg

通勤バスに乗っているとき、手の上をアリが歩いていました。家を出るとき、朝顔に水をやったりキュウリの伸びすぎたツルを切ったりしてきたので、そのときにくっついたのかしら?
しかし今日は、バスに乗る前にクリニックで心臓の薬の処方箋をもらい、薬局で薬を待ったりしていたし、その間もけっこう歩き回っていんですよ。だから、ずっと身体にアリを乗せていたとは考えにくいのですが……。腕に抱えていたジャケットにでも、もぐりこんでいたのかな?

しかし他の乗客にくっついていたとも考えられるし、連れて帰って庭に放してやるのが最善とは限りません。もちろん、つまんで車外に放り出すという選択肢もありましたが、それだって元いた場所とは違うでしょう。どうしたらいいのか分かりかねて、払い落とすことしかできませんでした。その後、アリはバスの床をウロウロしていましたが、そのうちに姿は見えなくなりましたよ。

彼女(働きアリだろう)にすれば、巣に戻る術もなく、まったく見知らぬ場所で放り出されて途方に暮れるばかりだったはず。人間で言えば、遠い外国の無人地帯に放り出されたようなもの。いや、宇宙の果てにある食べ物もない星に、ある日、突如として置き去りにされたようなものでしょう。すぐに死んでしまうという環境ではないにせよ、いずれ、そう長い時間を待たずに死ぬことは確定した状況に置かれているのです。

アリ一匹に何を大袈裟な妄想を、と思うかもしれません。
妄想だよねと照れつつも、ふと数枚の絵が脳裏に浮かびました。タッチは藤子F先生。
バスの床をはっているアリを見て、少年がつぶやきます。
「あのアリは、もう巣には戻れない。人間で言えば遠い無人の惑星に置き捨てられたみたいなものか」
それを聞いた少女が答えます。
「なにを言ってるのよ、たかがアリじゃないの。そんなことよりも、これから行く旅行のことをお話しましょうよ。わたし、太陽系の外へ出るの初めてなの!」
そう、彼らは西暦2XXX年の中学生で、修学旅行で太陽系から◯◯光年離れた、テンジンサマ太陽系の惑星カゴメに向かうのだった……。
~中略~
宇宙船の事故で、生徒の何人かが救命ボートで惑星カゴメの衛星ホソミチに不時着するも、食料は一切なかった。
少年は、宇宙ターミナルに向かうバスの床にいたアリを思い出すのだった……。

妄想、おわり!


この記事へのコメント