ある少女にまつわる殺人の告白(佐藤青南)

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「ある少女にまつわる殺人の告白」とはなにやら剣呑なタイトルですが、まさに剣呑な物語です。
ジャーナリストと称する人物から事件について取材を受けた人の告白という形式で進みますが、このジャーナリストの正体も、大きなトリックです。しかし十数年前(2024年8月現在)の作品とはいえ、ネタバレは避けておきます。

物語の中心として語られるのは、少女とその母親、そして母親の内縁の夫。この「内縁の夫」がとんでもないDV野郎で、DVなんて言葉はむしろ生ぬるい。誰にでも暴力を振るう凶暴男で、告白者の一人によれば「名前を呼ぶにも値しないクソ男」。少女はこのクソ男から、激しい(ときには性的な)暴力を受けています。

告白者の中心である児童相談所所長が少女の保護に乗り出しますが、凶暴クソ男と、凶暴クソ男に依存している母親のために失敗を重ねます。最後の最後に、少女のある行動をきっかけに凶暴クソ男と母親が逮捕されて少女は自由になる。しかし読んでいて、なにか違和感を感じます。というか作者が違和感を散りばめているのですね。

少女の味方をする人間もいるのですが、その入れ込みようが常軌を逸したものになる。児童相談所に保護された少女は、美貌であることや虐待を受けていたとは思えない明るい性格で職員等を魅了していく。少女の成人後ではあるが、ある女は頼まれもしないのに傷害罪を犯し、また別のある男は殺人を犯す。少女のなにが人々を引きつけるのかが謎です。
実はここが肝心なポイントなのですが、少女はたいへんな美少女で、その母親もたいへんな美人という設定です。
ということは、人々を引きつけるのは、その美貌……?
いや、それだけでは説明がつきませんね。

ぼくがたどり着いた結論は、サイコパスでした。サイコパスの特徴として見た目の美しさなどの魅力で人を引き付け、ときには思うままに操ったりする。そのかわり多くのサイコパスには他人との共感性や道徳心がかけていることがある。どうも、この物語の少女を思わせますね。
しかも彼女は、その結果として罪を犯しています。こうした行動面にもサイコパスを感じます。
ちなみに少女の罪は、ある人物により隠蔽されるのですが、それもまたサイコパスとしての少女に操られた結果のように思えます。

しかし彼女はどうしてサイコパスになったのか。生来のものなのか。あるいは凶暴クソ男から激しい暴力を受けているうちに、自分を守るために、生き残るために知らず知らずに身に着けた処世術なのかもしれません。だからと言って、彼女の行動がすべて許されるとは限らない。なるほど、確かに義父にあたる(婚姻届は出していないだろう)凶暴クソ男に傷つけられ、母親は助けてくれないどころか少女を凶暴クソ男に差し出すような裏切りを見せる。その中で、生き残るために犯した罪で少女が裁かれるとしたら、それはあまりにも救いはないでしょう。

だけど、ちょっと待ってほしい。
その理屈は凶暴クソ男が、「自分も父親から虐待を受けていたから」ということを言い訳に暴力を振るうことを正当化するのと変わらないのではないか。

ということはわかっていても、やはり少女を助けたい人がいた。
それはやはり、美少女だったからでしょう。

教訓、美少女を見たらサイコパスと思え(←違います)。

この記事へのコメント

  • しろまめさん、どうもです。
    そっか~、やはりポイントは美少女という事か~。
    こりゃ、私もこの本読まなければいけませんな(笑)
    それにしても、犯罪者(それも殺人者)が美人だったり
    美男だったりすると、その異常性が増しますよね。
    少し例えが違うかもしれませんが、幽霊もブサイクだと
    怖くないけど美人だったらゾクゾクするほど怖い、なんて(笑)
    それと、この手の美男、美女には犯罪者なのに
    人気が出たりしますよね。
    わかりやすくいえば、オウム真理教の一部の幹部連中に
    親衛隊のようなファンクラブが出来たり、
    外国人女性を殺害して逃亡後に捕まった犯人(イケメン)を
    支援するような女性たちが多く現れたり。
    2024年08月09日 20:34
  • しろまめ

    海 さん>>
    コメントありがとうございます。

    美男美女の犯罪者がすべてサイコパスなのかわかりませんが、もしかして犯罪者のうちで狡猾で美男美女をサイコパスと分類しているとか(笑)。

    そして幽霊がブサイクだったら、妖怪と呼ばれるのかもしれませんね。

    まあ、海さんはくれぐれも美少女にはご注意を(笑)。

    2024年08月09日 22:06