ドン・フェルダー自伝~天国と地獄、イーグルスという人生

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「イーグルス」でGoogle検索すると仙台のプロ野球チームが検索上位に表示されて、「おいおい」と思っていたものですが、もう慣れました(個人的には、野球でイーグルスというのは、江口寿史の漫画に登場した架空のチームという印象ですな)。

「バンド」という検索ワードを加えてやれば、ちゃんとアメリカンロック史上、最も成功したであろうバンドにたどり着けます。
イーグルス最大のヒット曲と言えば、「ホテル・カリフォルニア」でしょう。おそらく大抵の人は聞き覚えのある印象的なアルペジオで始まる曲です。あのイントロは、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」と比べて遜色ない名作です。もちろん、イントロだけでなく本編の歌も、エンディングのギター・ソロも。

では、あの曲を作ったのは誰か?
イーグルスのヴォーカルは、ドン・ヘンリーとグラン・フライの二枚看板。作詞作曲も、ほとんどこの二人が担当しています。
「ホテル・カリフォルニア」はドン・ヘンリーがヴォーカルを担当。作詞もドン・ヘンリーです。
しかし作曲したのは、ドン・フェルダー。イーグルスで最大のヒット曲が、二枚看板の作曲ではない、というのがこのバンドの複雑な事情をさらに複雑化させたように思えます。

と、いうのもドン・ヘンリーとグラン・フライはバンドに対する支配欲が強かった。そのせいで、4人のオリジナルメンバーのうち、2人は追い出されるようにして脱退しています。「追い出す」ようにしたのが、ドン・ヘンリーとグラン・フライ。
ドン・フェルダーは、2人が相次いで脱退する前に加入した準オリジナルメンバー。ここが事態をややこしくしているのですね。

ドン・ヘンリーとグラン・フライは、自分たちをイーグルスという会社(実際に法人化されている)の経営者と考え、他のメンバーを従業員とみなしていました。「考え」たり、「見なし」たりするだけならまだしも、報酬の面でも差をつけます。ドン・ヘンリーとグラン・フライは、他のメンバーの倍の報酬を得ていたのです。なにしろ、儲けた金が大きいですから、報酬も大きい。それが倍もの差があったんじゃたまりませんね。
このへんの感覚は、がめついとか金銭に貪欲(それもあるが)というよりも「金銭=自分への評価」と捉えているフシがあります。以前に読んだスタン・ハンセン(言わずと知れたプロレスラー)の本で、やたらとファイトマネーの金額にこだわり詳細に記述していたのも、それが自分に対する評価、自分の価値と直結するからなんですね。

そういうわけですから、きちんと報酬面で対応してくれないことには、ドン・フェルダーには不満がたまります。フェルダーは、ことあるごとにイーグルスの経営状況や収支を確かめようとしたり、報酬を公平に分配するように申し出たりしていました。そうすると、ドン・ヘンリーとグラン・フライの側が面白くない。フェルダーに対して辛辣な態度を取りはじめます。

ステージでは和気あいあいとパフォーマンスをしながら、バックステージではお互いに口もきかないという状況が何年も続く。そんなこんなで、ドン・フェルダーは最終的にイーグルスを追い出されてしまう。

イーグルスを辞めた(解雇された)あとのフェルダーは、抜け殻のような状態がしばらく続きます。その様子はあたかも、日本の仕事一筋に頑張ってきましたサラリーマンが定年して濡れ落ち葉になったような、と言っても過言ではありません。もちろんフェルダーの手元には定年後のサラリーマンとは比べ物にならない資産が残っているはずですが、イーグルスという職場、イーグルスという人生を失ったダメージから立ち直るにはかなりの時間を要したようです。ワーカホリックというのは、日本人だけじゃないんだなあ。

本文中では、ドン・ヘンリーとグラン・フライに対して、かなりの不満をぶつけていますが、同時に彼らに対する抜きがたい親愛の情も感じられます。愛憎入り交じった複雑な心情は、家族以上に長く濃密な時間を過ごしていたメンバーでないと理解しがたいものもあるのでしょう。

ところで、ドン・ヘンリーとグラン・フライの側から見ると、フェルダーはバンドの経営に口を挟むうるさい奴という以上に、最大のヒット曲である「ホテル・カリフォルニア」を作曲した男として、嫉妬や劣等感を感じていたのではないか?
確かに、ドン・ヘンリーとグラン・フライの作品も大ヒットはしていますが、コンサートのオープニングは「ホテル・カリフォルニア」。そして、アルバムとしても一番売れたのが『ホテル・カリフォルニア』。この事実は、プライドの高い二枚看板にとっては、かなり耐え難いものだったのではないか?
その結果が、フェルダーに対する仕打ちだったのではないか?

ちなみに、ドン・ヘンリーとグラン・フライの二人も、決して仲が良かったとは言えない。それどころか、たぶん対立していた。その対立を決定的な分裂にしなかったのは、『敵の敵は味方』という理屈。オリジナル・メンバーや、ドン・フェルダーに対しての「いじめ」を通じて、二人はかろうじて手を組んでいられたんじゃないか。

うーん、成功したバンド、というのも大変なものですね。成功しなかったバンド、というのはもっと大変だろうけど。

ちなみに、イーグルスとならぶアメリカン・バンドの代表であるドゥービー・ブラザーズ。こちらはメンバー同士が非常に仲良しで、脱退した過去のメンバーがゲストとしてライブに登場したりしてます。
うん、そう言われてみれば、ドゥービー・ブラザーズのライブ版のほうが、聴いていて楽しい、気がする。

※友だちに借りて読みました。現在は絶版で中古市場では相当な値がついているらしいですよ。

この記事へのコメント

  • しろまめさん、どうもです。
    ホテル・カリフォルニアの哀愁漂うメロディーも
    裏事情がわかると、より深みが増しますな~(笑)
    ドゥービー・ブラザーズが、メンバー同士みんな
    仲が良いというのはイイですね。
    でも、そのようなケースは稀で、バンド活動も
    1つの「ビジネス」みたいな感じが欧米は多いのかも
    しれません。
    あのピンク・フロイドもメンバー間の仲は最悪で
    たしかドラムの人が一度解雇されたんだけど
    サポートメンバー扱いでツアーには、そのまま同行してて、
    その時のツアーで莫大な借金をバンドは背負って
    しまうんだけど、ドラムの方は正式メンバー扱いでは
    なかったから負債を免れた、なんて事があったようです。
    でも、負債を背負ったとしても、正式メンバーの
    ままのほうが本人は嬉しかったかもしれませんね(笑)
    ちなみに、その後に、またバンドには復帰してます。
    2024年09月24日 22:18
  • しろまめ

    海 さん>>
    コメントありがとうございます。
    この事情を頭に入れて『ホテル・カリフォルニア』を聴くと、ラストの一節(You can check out any time you like,but...)がより味わい深いです(笑)。

    それにしても、バンドのメンバーチェンジって、思ったよりも多いんですね。
    昔、イエス(プログレッシブ・ロックの)に関する本を読んだ時、あまりに頻繁なメンバーチェンジに面食らいました。バンドとは、ビートルズみたいにずっと同じメンバーでやるもの、というイメージがあったので……。キング・クリムゾンなんかも複雑ですし、メンバーが変わらないのはEL&Pくらい?

    ピンク・フロイドのドラマーの件、負債を負ってでも正式メンバーのほうが、にはグッときますね。
    負債を負わなくて助かった、なんて根性ではロックはやってられませんから(笑)。
    2024年09月25日 20:35