ヒルビリー・エレジー(J・D・バンス)

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ヒルビリーとはアメリカで貧乏な白人を意味するスラング。著者のJ・D・ヴァンスは、2025年1月にアメリカ合衆国大統領に就任するドナルド・トランプが副大統領に指名している人物です。そんな人物がヒルビリーとどういう縁があるのかと思えば、驚くなかれ、ヴァンス氏はオハイオ州のミドルタウンというラストベルトに属する貧しい地区の出身なのです。本書はそうした生い立ちや、ヒルビリーたちの暮らしぶり、生き様を描いています。

ヒルビリーたちの生態は、無教養で粗野で貧乏で、目先の享楽(酒やドラッグ)のためなら家族や友人も平気で裏切る。そして自分の貧乏や仕事にありつけないのは、社会が悪い、政府が悪いという責任転嫁タイプです。なにしろヴァンス氏の祖母からして常に銃を携帯しているという、アメリカ人をよく知らない日本人がアメリカ人を想像するときのイメージみたいな人です。娘(ヴァンス氏の母親)が、子どもだったヴァンス氏を虐待しようとしたときは、「文句があったら、あたしの銃に向かって言いな」と啖呵を切る人です。映画の中でなら面白いけど、こういう隣人がいたら、ちょっと怖いな。

ヴァンス氏はそういうコミュニティを抜け出して、海兵隊勤務を経てオハイオ州立大学、イェール大学ロースクールで学んだという、いわば立志伝中の人物とも言えます。しかしヴァンス氏は、自分の故郷であるミドルタウンを愛しており、祖母を誰よりも愛している。こういう心情はアメリカ人に受けるのでしょう。ミドルタウンを抜け出せずにヒルビリーとして生きている人たちも、この点を支持するのでしょう。日本の選挙は地域密着で泥臭いものだと思っていましたが、アメリカはもっと泥臭い。考えてみれば、選挙のやり方がアメリカから輸入されたものであれば、その泥臭さも付随してくるのも当然ですね。選挙とは、泥臭いものなのでしょう。トランプ氏による副大統領指名も、ヴァンス氏の泥臭い魅力を見込んでのことなのか。

本書の巻末の解説では、ヒルビリーの味方であったはずのトランプ氏の裏切りについて言及されています。今回もまた、巧みな大衆扇動で当選を果たしたトランプ氏、そして副大統領(予定)のヴァンス氏。このふたりがアメリカ社会をどういう風に牽引するのか、あるいは混乱させるのか。



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