
人気漫画家の荒木飛呂彦が、自身の漫画実を公開した本。帯に「企業秘密を公にするのですから、僕にとっては、正直、不利益な本なのです」と正直な意見が書かれているところが新鮮ですね。藤子F不二雄や手塚治虫を始めとした漫画家による漫画指南本に、そんなことが書いてあったとは思えないのですが。
しかし読めばわかるのですが、確か確かに荒木飛呂彦をして「自分には不利益だ」と言わしめる内容です。これまでの漫画指南本というのは、鉛筆で下書きをしてペンを入れてベタを塗ってはみ出したらホワイトで直して、という基礎的な技術やそれにまつわる漫画家独自の文房具(ペンの種類とかケント紙についてなど)を紹介するものでした。
ところが本書では、具体的な絵の描き方、ストーリーの作り方などを実に詳細に説明しています。絵の苦手な(字も苦手だし計算も苦手だし女性も苦手で、苦手なものが多い貴公子ですので)ぼくですら、読んだあとは一本の線も引いていないのに、絵がうまくなった気がしましたですよ!
そして漫画だけでなく、物語を書くためにも役立つノウハウもあります。漫画とは絵だけでなく物語があって成立するものですから、ある意味で絵の巧拙よりも重要だったりするのですが。
さて物語を作るうえで重要なのが「世界観」「キャラクタ」「ストーリー」「テーマ」だそうです。
よく「作品のテーマ」とか「伝えたいテーマ」などと言いますが、「テーマ」というのが何なのか、実は今ひとつよくわかっていなかったです。それがこの本を読んで明確になりましたから、大きな収穫です。
ところが上記の4つの中でとりわけ漫画に重要なのは、「世界観」と「キャラクタ」だそうです。
詳細は省きますが、確かに魅力的なキャラクタがいれば、それだけで読者としては惹きつけられますよね。
ぼくが好きな小説に、倉知淳の『猫丸先輩シリーズ』があります。年齢不詳の自由人で妙なところで頭がまわり身の回りの不思議な事件にそれらしい説明をつけてくれます。猫丸先輩の語り口が相手によって毒舌調だったり、異様に丁寧だったりして、それが噺家じみた滑舌のよさでポンポン展開されるところがたまりません。
全部は読まないのに、猫丸先輩の描写部分だけを何度も読み返したりもしています。
荒木飛呂彦のいうこと、確かです!
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