
小学校2年生の春、父の転勤で北海道の地方都市から田舎町に引っ越しました。
まだ友だちもできないころ、家の近くをうろうろしていたら、古い農業用水池のまわりに子どもが数人集まっていました。ほとんどは、ぼくよりも大きい子でしたが、ぼくと同じか小さい子もいました。
彼らがなにをしていたかというと、長い棒で池の水をかきまわしていたのです。撹拌された水のそこから、泥と沈んでいた枯れ葉がもくもくとわきあがり、なにやら不穏な雰囲気が。
池の水をかき回して遊んでいるのか? と思っていたら、じきに池から何かが飛びだしてきました。すると、そこにいた子どもたちがワッと声をあげて、飛びだしてきたものを取り囲みます。取り囲まれて動かなくなったのは、カエルでした。どうも池の水をかきまぜることで、カエルを追い立てていたようです。なるほど、カエルはこうやって捕まえるのか、と思っていたら。
彼らは、連中は、その悪ガキどもは! 石を叩きつけて、カエルを殺したのです!
「え????」でしたよ。
「なんで???????」でしたよ。
悪ガキどもは、手のひらほどの大きさの石を高く振りかぶって思い切り力いっぱいカエルにたたきつけていたのです!
もちろんカエルはひとたまりもありません。イチコロ、です。
その後も次々に飛びだしてくるカエルたちに、悪ガキどもは石をぶつけ、石でつぶし、石でもって殺戮を繰り返しました。
ぼくより年下と思われるガキも、両手でかかえた石をカエルの上に落としていました。
つぶされた瞬間、石の下にならなかった脚がピーンと伸びていたのが、あたかもカエルの断末魔のようで忘れられません。
ぼくの存在は、ほぼ無視されていたと思います。知らない子だから、無関係で眼中にもなかったのでしょう。
もしかして忘れているだけど、「お前も殺るか?」みたいな誘いはあったかもしれません。
もしもそうだったら、必死に断ったでしょう……。
悪ガキどもは、とくに楽しそうな様子でもなく、まるで課せられた義務、例えば学校の掃除当番でもするようにカエルを殺していました。
面白がって殺すのでもなく、なんの感情も伴わないかのような殺戮。
相手がカエルだから、害獣駆除ということでも当然ありません。
理由も聞けませんでした。なんだか聞けない雰囲気でしたもの。
やがてカエルが出てこなくなると、殺戮の嵐はおさまり悪ガキどもは帰っていきました。
いったい、今のはなんだったのか。理解できないまま立ちすくんでいた紅顔の美少年……。
後日、その池に行って池の底を棒でつついてみました。
カエルを殺そうというのではありません。カエルを捕まえてみたかったからです。
ところがカエルは一向にでてきません。先日の殺戮で、全滅してしまったのか……。
そう思ってあきらめたとき、なんとなく、そばにあった木材を池に投げ込んでみました。
池の水が盛大にはね上がり、水面が波立ちます。
その波がおさまるころ、カエルが浮かんできました。
カエルはまだいたのです!
「やった、カエルがいたぞ! 捕まえられるかな?」と思ったのですが……。
水から飛び出して来るはずのカエルはピクリとも動きません。
よく見ると、頭から血を流していました。どうやら、ぼくが投げ込んだ木材が当たっようです。
カエルは死んでいるにちがいありませんでした。
頭に裂傷を負い血を流しながら、力なく池に浮かぶカエル。それを放ったまま家に逃げ帰りました。
自分のしたことが恐ろしくなったのですよ。
近所の悪ガキたちがカエルを殺したと書いていましたが、実は自分も殺していたのです。
故意ではなく事故のようなものですが、カエルがいるかもしれないと思っていた場所に木材を投げ込んだのですよ。
殺意は認定されなくとも、未必の故意くらいはあるかも。
虫とかクモとかカタツムリとかカニとか、外骨格動物や軟体動物はずいぶん殺しましたけど(それも十分に残酷ではあるが)、比較的人間に近い内骨格動物を殺したのは、あれが最初で最後。
今でも映画やドラマで海に浮かんだ死体(人間の)を見ると、池で死んだ(自分が殺した)カエルを思い出します。
この記事へのコメント
海
いや~、なかなか辛い話ですね・・・・
実は私も同じような事をして遊んでました。
小学生の時、北関東の埼玉県甘木市に父の転勤で
引っ越しました。家の周りは、普通に田んぼがありました。
小さなアマガエルがたくさんいたのですが、
学校帰りに、田んぼでアマガエルを捕まえたら、
物凄い勢いで地面(アスファルト)に叩きつける遊びを
みんなやってました。
もちろん、私も真似して遊んでました。
勢いよくアスファルトに叩きつけると、
当然ですがカエルのお腹が破裂して、即死ですが
破裂しても、まだピクピクしてるカエルもいて
今考えても酷い事をしたな、なんて思います。
たしか心理学の面から見てみると、このような
小さな生き物(昆虫も含む)を子供が殺すのは
ある意味で正常みたいですね。なんの心配も
しなくていいみたいですが、高校生になっても
まだやってたら、大いに問題があるみたいです。
しろまめ
コメントありがとうございます。
あのころはお世話になりました。お忘れですか?
しろまめの正体は、あのときのアマガエルですよ。
あなたがたが面白がって、アスファルトに叩きつけたアマガエルです。
みんなは死んだケロ、ぼくだけは、どうやら、生き残りました。
あれから、ずっと、あなたがたをさがしていたんですよ。
どうして、ぼくだけが、生き残れたのか、それはわかりませんケロ。
あのころのお礼をしたくて、その一心で生き延びれたのかもしれません。
だケロ、こうして海さんが見つかった以上はケロケロケロケロ。