合本版コロコロ創刊伝説・上(のむらしんぼ)

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亡くなった母親はよく漫画の本を買ってくる人でした。お土産代わりに買ってきたのは、よこたとくおのような児童向け漫画から、ジョージ秋山の大人な漫画、貸本漫画風の劇画などもありました。
いったい、どういう基準で選んで息子に買い与えていたのか。ちなみに例にあげた漫画を買ってもらったのは、小学校2~3年生のころなんですが……。

年齢相応、ということがよくわかっていなかったのかもしれません。
何しろ、ぼくが高校入学したころ「月刊コロコロコミック」を買ってきたくらいですからね。
「月刊コロコロコミック」は、1977年に創刊された男子小学生向けの漫画雑誌で、藤子不二雄(まだコンビ解消していないころ!)の『ドラえもん』を軸に、児童向け漫画がぎっしり詰まっていました。その厚さはちょっとした辞書くらいはあったでしょう。コロコロコミックを懐に入れておいたおかげで、戦地で敵に撃たれても弾丸がコロコロコミックで止まった、というエピソードなんぞありません。

まあ高校生が読むにはいささか恥ずかしいほどガキっぽい内容でもありましたが、漫画としても面白さは本物でしたね。なにしろ『ドラえもん』が単行本1冊分は読めるだけでもお買い得です。
今をときめく、すがやみつるが『ゲームセンターあらし』を描いていたのもコロコロコミックですし、『東大一直線』で人気を博した小林よしのりが『おぼっちゃまくん』を連載したのもコロコロコミック。そう考えたら、コロコロコミックが漫画界に果たした役割は大きかったのではないでしょうか。

新人発掘にも熱心だったようです。いや、熱心だったというよりは、後発雑誌で、しかも当時は下火だった児童向け漫画雑誌ということですでに活躍している作家に描いてもらうのが難しかったらしいです。
函館出身の、のむらしんぼ もその一人。最初のヒット作は、『とどろけ!一番』。
中学受験に立ち向かう小学生の漫画なんですが、勉強方法というよりも試験対策が奇想天外な漫画ぶり。
大量の設問に対応するために、両手に鉛筆を持って答えを書く、右目で問題を読み左目で回答用紙を見る、両手に持った鉛筆で逆立ちして答えを書く(なんのために?)など、バカバカしくもパワフルで、実際に受験勉強に明け暮れる小学生たちにはウケたようです。
こういうアクロバティックな技は、『ゲームセンターあらし』の影響らしいですね。おおらかな時代性もあるのですが、作者の性格もあるのでしょう。こういう「影響を受け」た描写は多くて、のちのち問題になるようです。
そんな破天荒な試験対策技が目立っていた『とどろけ!一番』ですが、時には真っ当なことも書いていました。
主人公・一番(という名前)のクラスメイトに言わせると、「ガリ勉をしているわけでもないのにどうして百点取れるのか?」と思って授業中の一番を見ると、ものすごい気迫で集中して先生の話を聞いているのです。その集中力たるや、炎が立つほど!
高校生として受験を控えていたぼくの胸に、このシーンは深く刻み込まれました。そのおかげで、勉強したことを刻む場所がなかった。

というわけで『コロコロ創刊伝説』は、そんなコロコロコミックの創刊当時の人間模様を新人マンガ家として目撃してきた、のむらしんぼ による実録伝記と言えましょう。
のむらしんぼはちょっと情けない男だけど、のむらしんぼを導く編集者の熱い心、深い懐、当時の漫画業界事情や小学生たちのリアクションは読み応えあり、ですよ。

※Kindle版で購入したので、画像はアマゾンの商品ページから。


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