センターライン

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こどものころ~小学校中学年~には、北海道の田舎町に住んでいました。現住所の小樽だってそこそこ田舎だろう、というご意見もありましょうが……。
当時住んでいた町は、人口数千人の本当に田舎でした。すでに国鉄(当時)は廃線で、バスだけが外部との交通手段でしたよ。それも今では珍しくもありませんが、そのころの感覚では、鉄道が廃線だなんて「いかにも寂れた田舎町」でありました。

町の外へ出かけるのに乗ったバスで、ぼくはあることに気づきました。
「バスが、センターラインをはみだしている!」
前方の席に座ってフロントガラス越しに前を見ていると、バスが進むにつれて車体の下に流れ込むセンターラインが目に入ります。
そしてセンターラインは、フロントガラスの中央辺りで潜り込んでくるのですよ。
それを見て、頑是ない紅顔の上品な美少年だったぼくは叫んだのです。
「バスが、センターラインをはみだして走っているよ!」

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車掌のお姉さんが、ぼくの叫びに気づいて近づいてきました。
そしてやさしく微笑みながら、心配はいらない、バスはちゃんとセンターラインの左側を走っていると言ってくれました。
しかし、そんなことで頑固で思い込みが強くて言い出したらきかない幼い貴公子が納得するはずがありません。
しばらくの間、センターラインをはみだしている、前から来た車とぶつかっちゃう、などと取り乱していましたよ。

もちろん言うまでもないことですが、バスがセンターラインをはみだして走行していた、なんてことはありません。単なる目の錯覚です。

このとき、「静かにしろ」とか「うるさい」とか「子供のくせにハンサムで上品すぎる」と叱られた覚えはありません。
運転手さんも確か、「ぼうやの座っている場所からはそう見えるだけ」みたいなことを言ってくれた気がする。
運転手さんの後ろに座っていた人が、席を替わってくれて、バスはちゃんとセンターラインの内側を走っているのを見せてくれた気もする。

周囲の大人がやさしかったのか、年少にもかかわらず身にまとった気高い雰囲気に押されたのか。

これもまた、リアルな児童文学だったり……しないか。

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