2025年5月11日、札幌コンサートホールKitara小ホールで舘野泉ピアノリサイタルが催されました。
舘野泉氏といえば、日本を代表するピアニストのひとりですが、それ以上に「左手のピアニスト」として知られています。2002年に脳出血を発症し、右半身に麻痺が遺りました。
その左手のためのピアノ作品を演奏し、ステージに復帰したという驚くような経歴の方です。そして今回は、元田牧子氏の朗読とのコラボリサイタルであります。
ほぼ満席のKitara小ホールのステージに、舘野氏は車椅子で登場しました。
車椅子から立ち上がり、ピアノまでの数歩の距離。それをピアノにつかまりつつ、やや危なげな足取りで進み着席しました。
正直なところ、こんなにヨボヨボ(←とても失礼だが率直にそう感じた)していてピアノが弾けるのだろうか……? と思いましたですよ。
ところが。いざ演奏が始まると驚きました。
冒頭の力強いフォルテシモは、雷が落ちたような音でステージの床が抜けるんじゃないかと思いました。
ピアノの鍵盤が壊れそうなほど力強い、というのはよくあるのですが、その力がピアノの脚を伝ってステージの床をぶち抜くきそうに感じたのは初めてです。
いったい、あのヨボヨボ(←本当に失礼極まりないが)したご様子から、この雷鳴というか落雷というか、大砲の弾が落ちたようなアタックはなんなのだ!
それはあたかも、剣術やカンフー映画に登場する年老いた達人のようであります。
枯れ木のような老人でありながら、いざ武術の技を使えば、若くて活きのいい大男が束になってもかなわないみたいな。
もちろんピアノ演奏はフォルテシモだけではありません。繊細なフレーズはガラス細工を積み重ねるような精緻さで音が紡がれていき、時に現れる複雑なフレーズは「これがどうして片手での演奏なのだ?」とステージに目を凝らすこともしばしばでした。
そして小ホールの音の響きの良さも忘れられてません。減衰していくピアノ音と共鳴音の最後のひと雫まで、しっかりと耳に届きました。
曲が現代曲ですので、なかなかとっつきにくいところもあるのですが、生の音だけが持つ魅力に引き込まれました。
もちろん元田氏による朗読の面白さも見過ごせません。
小泉八雲の怪談をモチーフにした第一部では朗読とピアノが交互に演じられ、第二部ではコラボレーションにふさわしく演奏に朗読が絡み合う構成でした。
特に『魔女の夜宴(ゴヤを描く)』では、複雑な現代曲に、おそらくコンマ何秒というタイミングで合わせていく朗読の見事さに圧倒されました。
プログラム終了後はカーテンコールだけでなく、二曲のアンコール曲を弾いてくださいました。
一曲目は『赤とんぼ』を主題にした即興的な演奏で、二曲目は甘く切ない曲でした。
静かながらも、力強さを感じるピアノに打ちのめされちゃった、という感じ。
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