ペヤング問題~商品名や固有名詞の使い方には要注意

文章を書く時、それが物語であれエッセイであれラブレターであれ借金の申し込み書であれ、文中に商品名や固有名詞を登場させるのは注意が必要です。商標権の侵害などもそうですが、それ以上に文意が通じないということもありうる。

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昨日のカップ焼きそばの件ですが、北海道では「焼きそば弁当」、本州では「ペヤング」がそれぞれ主流です。そうしたことは、インターネットを通じて雑多で些末な情報が飛び交う現代では常識かもしれません。しかしインターネットなんて言葉がなかった、あるいはあっても一般の人には利用されていなかった20世紀。「ペヤング」という言葉を知らない人間もいたのですよ。嘘じゃない、現にここに一人いて駄文を書いています。

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ここで当然の疑問として浮上するのは、なぜ「ペヤング」を知らなかったと断言できるのか。知らない言葉というのは、出会ったことがない言葉じゃないか?ということです。
実は前言と矛盾するようですが、「ペヤング」という言葉には接していたのです。だから正しくは、『「ペヤング」という言葉は見聞きしたことがあるが、それ何だったのか知らなかった』とすべきなのですが。ややこしいので、単に『知らなかった』としたのですよ。

前置きが長くなったけど1980年代、4コマ漫画を愛読していました。当時は4コマ漫画ブームで、今よりもたくさんの4コマ漫画が雑誌に掲載され、4コマ漫画専門の漫画雑誌もあったほどです。そのころの人気漫画のひとつに、女子高生の日常を描いた作品がありました。
主人公の女子高生によれば、顔が四角い教師Aのあだ名は「ペヤング」で、いうまでもなくカップ焼きそばの容器に似ているから。
ところがこの教師、生徒たちから「ペヤング」と呼ばれると大喜びしているのです。なぜなら、「ペ」が聞こえてないのか「ヤング」と呼ばれていると勘違いしている……というオチでした。

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「ペヤング」を知らないと、意味がわかりにくいですね。カップ焼きそばの容器とペヤングという言葉がどう結びつくのか分からない。作者はたぶん東京在住で、北海道のカップ焼きそば事情など当然知らず、カップ焼きそばといえば「ペヤング」という「常識」に基づいて描いたのでしょう。出版文化の中心が東京だった当時、遠い北海道にいては理解が難しいネタがけっこうありました。山手線とか公共交通機関に関するネタとか銀座などの繁華街に関するネタとかね。

公共交通機関や地域地名については、「もしかして地方の人にはわからないかな?」という想像は、あるいは働くかもしれません。もしかしたら、そういう事情でボツになったネタもあったのかもしれないですし。
しかし「ペヤング」のように、商品カテゴリの主流製品については日本全国津津浦浦まで分かるだろうと考えてしまいがちなのでしょう。スポーツ選手や芸能人に関するネタも似たようなところがありますね。興味のない人には面白さが分からないネタがけっこうあった。

創作をする場合、そうした常識については注意が必要だなと気づかせてくれるのが「ペヤング」問題なのでした。

ところで、スポーツ選手をネタにしていながら、スポーツにまったく興味がなく選手のことを知らなくとも楽しませてくれるマンガが描けるのが、いしいひさいちですね。タブチくんとかアサシオとか、本人から独立した面白いキャラクタとして成立しちゃってるんですから。

※「ペヤング」ネタの4コママンガに興味のある方へ
作者は「あべこうじ」、収録されている本は不明ですが、「ムラサキ」もしくは「つむぎちゃん」あたりかな。
ただし中古品市場ではとんでもない値段がついている……。

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