原題はてっきり、『Thank You Latte!』だとばかり思っていたら、全然違って『How Starbucks Saved My Life(直訳:いかにしてスターバックスコーヒーは私の人生を救ってくれたか)』でした。『人生で大切なことはスタバで学んだ』(笑)とか、『スタバが人生を変えてくれた』くらいの直訳も悪くないですが、『ラテに感謝!』もシンプルでいいですね。何よりも、「原題はこうだろう」と推測した人を裏切って軽い衝撃を与えてくれますから。
筆者のマイケルは大学を出てすぐに大手広告代理店に入社。以来25年間、会社一筋に働いて来たのに、突如53歳で解雇を言い渡されます。よく日本人は働き過ぎなどと言われますが、アメリカのエグゼクティブの働きぶりは日本の企業戦士(←死語)に引けを取りません。というよりは、それを軽く凌駕するのではないか。手にする報酬は日本のそれよりも多いようですが、解雇についての手当の薄さは日本には遥かに及ばず、それぞれの良し悪しがあるようです。
解雇されてからマイケルは自分の広告代理店オフィスを立ち上げ、小さな仕事を拾っては食いつなぎますが十年目で顧客がいなくなり、生命の危機に直面します。そこで偶然に出会ったのが、スターバックスの求人イベント。偶然の女神に導かれるようにして、マイケルはスターバックスで働き始めるのですが、話はそう簡単ではありません。マイケル・ゲイツ・ギル、このとき63歳です。
日本でも大手上場一流有名(どれも同じか)企業から飲食店に転職して苦労するのは、まあよくある話。しかしアメリカ社会では、大手企業から飲食店へという職業の貴賤意識以外に、もっと大きな障壁があります。そう、人種問題、階級問題ですね。店舗の立地によるのでしょうが、マイケルが採用イベントに出会ったのは黒人女性のクリスタルが担当するエリア。クリスタルとしては、年配の白人男性でエリートだったマイケルが果たして自分の下で働けるかどうか、疑問に思うのは当然でしょう。
それでもマイケルは、スターバックスでしか自分の生きる道はないと心を決めて、およそ経験のない店の下働きの雑用から真面目に取り組み始めます。働いているうちにマイケルは、スターバックスの礼儀正しく企業文化に触れて変わっていく。顧客や上司以外の人たちに対して、以前の自分がいかに尊大に接していたかを思い知り、生まれ変わっていくマイケル。その姿に、いつ解雇を言い渡されても不思議はないハンサムで上品だけど気の弱い善良な頽齢の貴公子も共感を禁じえません。
ところで前述したように、スターバックスでは礼儀正しくあることが求められます。それは顧客に対しては当然ですが、同僚や部下に対しても同じこと。作中で上司のクリスタルや先輩スタッフたちは、マイケルに対して決して「店の前を掃除しておけ」とか「砂糖やミルクを切らさない気をつけろ」なんてことは言いません。
「マイケル、お願いしていいかしら? 店の前をきれいにしてくれる?」
「マイケル、注意して欲しいんだけど、砂糖やミルクは決して切らさないように気を配っていてもらえるかな?」
スターバックスはわかりませんが、日本では飲食店でけっこう、新入りに対する怒号が響いているように思います。あれはやめてほしい、ご飯が不味くなる。そういう店には二度と行かない。
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