スターバックスでは、レジで客とフレンドリーな会話をすることが推奨されているそうですが、マイケルはそれが実にうまい。店長である黒人女性のクリスタルも絶賛します。その魅力的な会話能力はマイケルが生来持っていたものか、あるいは前職の大手広告代理店での経験によるものか、本からははっきりとはわかりませんが……。もしかしたら、年齢のなせるわざなのかも。ぼくの個人としては、若い頃よりは幾分かでも会話能力はあがった気がします。二十代の営業マンだったころは客先でどんな会話をすればいいのか分からず、ひどいときには挨拶だけしてボサッと突っ立っていて邪魔だと追い返されたこともありました。いや、本当にひどいな。
しかし人生経験を30数年ほど重ねた今では、それよりは少しはマシな態度がとれると思います。
人生経験とひと口に書いてしまいましたが、もっとも重要なことは「図々しさ」でしょうね。若いころは「こんなことを言ってもいいのかな?」「笑われたら恥ずかしい」などの心配が先立ちました。だけど、その心配というのは要するに自意識過剰で、他人から少しでよく見られたいという見栄です。そんな見栄も自意識も、還暦をすぎるころには擦り切れてどうでもよくなるんでしょうね。多少の恥ならかいてもオーケー、人に笑われても、それで場が和やかになるならやすいものですよ。
マイケルが人に笑われることを是としたかはわかりません。しかし大手広告代理店で、仕事を取るかとられるか、利益は? 自分の昇進は? と生き馬の目を抜きながら、部下はいうに及ばず上司や同僚にも心を開くことなく、いわばトゲトゲのついた鎧に身を固めて生きてきたはずです。そこでは人に笑われるとは、まさしく敗北。そういう世界から、スターバックスで周囲の人に丁寧に接して働くうちに、きっと圭角もとれて、前職の苦労すら人格的魅力に書き換えたのでしょう。そんなマイケルと、ちょっと会話をしてみたいですね。
「やあ、マイケル。仔馬は元気かい?」
「おはようございます、しろまめさん。仔馬とは、なんのことでしょうか?」
「今日のコーヒーはなにかな?」
「はあ……本日のコーヒーはガテマラです(仔馬はどうしたんだろう?)」
「そう、じゃあ、アフォガードフラペチーノをホットでください」
「アフォガードフラペチーノは、冷たくしてお出しするのですが……(仔馬はどうなったんだ?)」
「はっはっはっはっ、だから最初からそう言ってるじゃないか」
「もう、帰ってください!」
「それよりもマイケル、仔馬がどうこう言ってたが、なんのことだい?」
「帰れ!」
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